Please send it by COB.
このメールを受け取って、今日の何時までなのか分からずに手が止まったことはないでしょうか。
ビジネス英語の略語は、意味を覚えるだけでは足りません。
その略語を使ってよいかどうかの判定を先に持たないと、自分が書く側になったときに事故が起きます。
この記事は、英国政府と Microsoft が公開している文章ガイドの原文と、英語版 Wiktionary の語義だけを根拠に組み立てました。
先に結論を書きます。
- 公式ガイドの原則は「初出は必ずスペルアウト(正式名称を書く)」の1つです
- GOV.UK は例外リストを公開していますが、そこに ASAP も FYI も入っていません
- Microsoft は「1回しか出てこない略語は導入するな」と書いています
- COB と EOD は辞書に時刻の指定がありません。だから時刻を書き添えます
- TBD は辞書に16通りの読み方が載っています。社外文書では避けます
ビジネス英語の略語は「初出でスペルアウト」が公式ルール
最初に、いちばん大事な原則を置きます。
これは慣習ではなく、公開されている文章ガイドに文字で書かれているルールです。
ビジネス英語の略語について GOV.UK が定めている原則
英国政府のGOV.UK スタイルガイド(A to Z)は、公的文書の書き方を定めた公式ガイドです。
そこには、略語についてこう書かれています。
The first time you use an abbreviation on a page, explain it in full. You can then refer to it by initials only on the rest of the page.
日本語に置き直すと、そのページで最初に略語を使うときは正式名称で説明し、以降は頭文字だけでよいという意味です。
同じガイドは、説明が要らない例外を具体的に列挙しています。
BBC, CCTV, DIY, DVLA, EU, GP, HM, HTML, ID, MI5, MI6, MOT, MP, NHS, PAYE, SORN, TV, UK, URL, USA, VAT, VPN
このリストを読んだときに、気づいてほしいことがあります。
ASAP も FYI も EOD も、この例外リストに入っていません。
つまり英国政府の基準では、これらは「説明なしで使ってよい語」に分類されていません。
ビジネス英語の略語について Microsoft が定めている原則
Microsoft のスタイルガイド(Acronyms)は、冒頭でこう書いています。
Acronyms and abbreviations can have an adverse effect on clarity, voice, and findability.
略語は明瞭さ・声・見つけやすさに悪影響を与えうる、という立場です。
同じページから、実務にそのまま使える規則を抜き出します。
- Only use acronyms that your audience is familiar with(読み手が知っている略語だけを使う)
- If you have to use an acronym, also spell out the term for clarity(使うなら正式名称を併記する。以降は略語だけでよい)
- Don’t introduce acronyms that are used just once(1回しか出てこないなら略語にしない。正式名称だけ書く)
- Be careful with acronyms in titles and headings(見出しでの初出は避ける)
- Lowercase the spelled-out term(正式名称は固有名詞以外を小文字にする)
同社のブランドボイスのページには、さらに端的に Shun jargon and acronyms(専門用語と略語を避けよ)と書かれています。
ビジネス英語の略語を使ってよいかの判定は2問で済む
2つのガイドを重ねると、判定は次の2問になります。
- 相手はこの略語を知っているか(知らなければスペルアウト)
- この文書に2回以上出てくるか(1回だけなら略語にしない)
どちらかが No なら、略語を使わずに書く。
これだけで、書く側の迷いはほぼ消えます。
ビジネス英語の略語①ASAP|期限を書かない逃げになりやすい
ここから、実際によく使われる略語を1語ずつ見ます。
ビジネス英語の略語 ASAP の語義と由来
Wiktionary の ASAP の項は、これを副詞とし、as soon as possible の頭字語だと説明しています。
同項の語源欄には、1950年代の軍の用語に由来し、最初の記録が Captain Annis G Thompson の1954年の著書 *The Greatest Airlift* にあると書かれています。
もとの意味は as soon as militarily possible(軍事的に可能なかぎり早く)だったとも記されています。
Initialism of as soon as possible.
辞書が挙げている例文は Susan, please check those figures ASAP! です。
ビジネス英語の略語 ASAP が事故になる理由
問題は意味ではなく、期限を1つも決めていないことです。
- 送る側の ASAP = 今日中
- 受け取る側の ASAP = 手が空いたら
この2つがずれたまま進むと、遅延の理由が誰にも説明できなくなります。
書き換えは単純です。
| ⛔ 略語のまま | ✅ 期限を数字にする |
|---|---|
| Please send it ASAP. | Please send it by 3pm today (JST). |
| I’ll get back to you ASAP. | I’ll get back to you by Thursday noon (JST). |
| We need this ASAP. | We need this before the client call at 10am on Friday. |
GOV.UK の例外リストに ASAP が入っていないという事実は、ここに効いてきます。
公的文書の基準では、そもそも説明なしで置ける語として扱われていません。
ビジネス英語の略語②FYI|返事は要らない、という合図
2つ目です。
ビジネス英語の略語 FYI の語義と品詞
Wiktionary の FYI の項は、これを for your information の頭字語(initialism)と説明しています。
同項の使い方の注記には、2つの用法が挙げられています。
- 文修飾の副詞として=FYI, there are donuts in the break room.
- 名詞として=I just wanted to give you an FYI about the donuts.
またこの語はインターネットやテキストメッセージより古く、いまは電子的なやり取りでいちばん多く使われている、とも書かれています。
ビジネス英語の略語 FYI が伝えている本当の意味
FYI が実務で担っている働きは、情報の提供そのものではありません。
「あなたが動く必要はありません」という合図です。
だから、相手に何かしてほしいときに FYI を付けると、意図と逆の合図になります。
| 目的 | 使う語 |
|---|---|
| 知っておいてほしいだけ | FYI, …(返信不要) |
| 確認してほしい | Could you review this and let me know by Thursday? |
| 承認してほしい | Could you approve this by Wednesday? |
FYI を付けたのに返事が来ない、というのは事故ではなく仕様です。
ビジネス英語の略語 FYI を社外に使うとき
社外へは、頭字語ではなく開いた形にするほうが安全です。
- ✅ Sharing this for your information — no action needed on your side.
Microsoft のガイドが言う「読み手が知っている略語だけを使う」に照らすと、初回のやり取りでは開くのが基準どおりです。
ビジネス英語の略語③COB と EOD|辞書に時刻は書かれていない
3つ目は、いちばん誤解が多い2語です。
ビジネス英語の略語 COB の語義
Wiktionary の COB の項は、ビジネスの文脈での COB を close of business の頭字語とし、the end of day on a business day(営業日の終わり)と説明しています。
辞書が挙げている例文は The NY office told the LA office to ensure the report was emailed by COB. です。
同じ項目には、まったく別の分野の意味も並んでいます。
- chairman of the board(取締役会長)
- chip on board(電子部品)
- coordination of benefits(保険)
- centre of buoyancy(物理)
つまり COB は、文脈が抜けると別の意味に取られる語でもあります。
ビジネス英語の略語 EOD の語義
Wiktionary の EOD の項も、ビジネスの意味として end of day を挙げています。
同項は、対義語として BOD(beginning of day)・SOD(start of day)を、関連語として EOB(end of business)・COB(close of business)を挙げています。
一方で EOD には、次の意味も並んでいます。
- explosive ordnance disposal(爆発物処理)
- every other day(隔日・医療)
- event of default(期限の利益喪失・金融/法務)
- end of data(コンピューティング)
- end of discussion(ネットスラング)
金融や法務の文書で EOD を軽い意味で使うのは、避けたほうがよい語だと分かります。
ビジネス英語の略語 COB・EOD で必ず起きる質問
ここが本題です。
辞書のどちらの項目にも、「何時」という指定は書かれていません。
書かれているのは「営業日の終わり」「1日の終わり」までです。
ですから、次の3つが決まっていません。
- 誰の営業日か(送り手の拠点か、受け手の拠点か)
- 何時か(17時か、18時か、日付が変わるまでか)
- どのタイムゾーンか
辞書の例文が「NYのオフィスがLAのオフィスに COB までにと言った」という時差のある2拠点の話なのは、偶然ではありません。
書き換えは1つです。
| ⛔ 略語のまま | ✅ 時刻とタイムゾーンを書く |
|---|---|
| by COB | by 6pm today, London time |
| by EOD | by 5pm today (JST) |
| by EOD Friday | by 5pm on Friday, 12 September (JST) |
受け取った側なら、動く前に1文で確認します。
- ✅ Just to confirm — is that 6pm your time or ours?
ビジネス英語の略語④TBD と ETA|意味が1つに定まらない語
4つ目です。
ビジネス英語の略語 TBD は辞書に16通り載っている
Wiktionary の TBD の項は、句としての TBD に16通りの読み方を挙げています。
to be dated/to be decided/to be declared/to be deducted/to be defined/to be delivered/to be derived/to be designed/to be destroyed/to be determined/to be developed/to be disclosed/to be discovered/to be discussed/to be done/to be documented の16です。
さらに名詞として torpedo boat destroyer(水雷艇駆逐艦)も載っています。
- 社内の下書き → 使ってよい
- 見積書・契約書・顧客資料 → 使わない
社内の下書きスライドで TBD を置くのは問題ありません。
しかし見積書・契約書・顧客向けの資料に置くと、決まっていないのか、後で決めるのか、誰が決めるのかが読み手に伝わりません。
- ⛔ Delivery date: TBD
- ✅ Delivery date: to be confirmed by our logistics team by 20 October
ビジネス英語の略語 ETA の語義
Wiktionary の ETA の項は、第一の意味を estimated time of arrival(到着予定時刻)としています。
一方で、同じ項目には次の意味も並びます。
- Electronic Travel Authorization(電子渡航認証。豪州では Electronic Travel Authority)
- edited to add(ネットスラングの「追記」)
- Elvis tribute artist(エルヴィスの物まね芸人)
- Euskadi Ta Askatasuna(1959年から2018年まで活動したバスクの組織)
ビジネスの場面では第一の意味で通じますが、もともとは物理的な到着を指す語です。
作業や納品の完了時刻に使うと、輸送の到着なのか、作業の完了なのかがぼやけます。
- ⛔ ETA on the report?
- ✅ When do you expect to have the report ready?
ビジネス英語の略語で、公式ガイドが「使うな」と書いているもの
ここは覚える価値があります。
ビジネス英語の略語 eg・ie・etc は開いて書く
GOV.UK のスタイルガイドは、eg ie etc について、避けるよう指示しています。
そのうえで、置き換える語まで指定しています。
| 避ける語 | ガイドが挙げている代わり |
|---|---|
| eg | for example, such as, like, including |
| ie | meaning, that is |
| etc | 同様に、開いた表現に置き換える |
これは英語圏の慣習ではなく、公開されている公式ガイドに書かれている指示です。
社外文書やウェブに出す文章では、この基準に合わせておけば批判されません。
ビジネス英語の略語について「please note」も同じ扱い
同じガイドは、please や please note について、普通は言う必要がないという趣旨も書いています。
略語を削るのと、前置きを削るのは、同じ方向の話です。
読み手が受け取る情報量を増やさない語は、全部削るという原則が背後にあります。
ビジネス英語の略語を使ってよいかの判定3問
書く直前に、この3問だけ通してください。
- 相手はこの略語を知っているか。 知らない可能性があるならスペルアウトする(GOV.UK・Microsoft 共通)
- この文書に2回以上出てくるか。 1回だけなら略語にしない(Microsoft)
- その略語は、時刻・期日・担当のどれかを曖昧にしていないか。 していれば数字と名前で書き直す
3問目は、ASAP・COB・EOD・TBD がまとめて引っかかるところです。
辞書に時刻が書かれていない以上、書き手が書かないかぎり、時刻はどこにも存在しません。
ビジネス英語の略語|一覧表
ここまでを1枚にします。
| 略語 | 正式名称(辞書の記述) | 社内 | 社外 | 書き換えの型 |
|---|---|---|---|---|
| ASAP | as soon as possible | 可 | 避ける | by 3pm today (JST) |
| FYI | for your information | 可 | 開いて書く | for your information — no action needed |
| COB | close of business(営業日の終わり) | 可 | 避ける | by 6pm today, London time |
| EOD | end of day | 可 | 避ける | by 5pm today (JST) |
| TBD | to be determined ほか16通り | 下書きのみ可 | 使わない | to be confirmed by … by 20 October |
| ETA | estimated time of arrival | 可 | 注意 | When do you expect to have it ready? |
| eg / ie / etc | — | 可 | 公式ガイドが避けるよう指示 | for example / meaning / such as |
社外に出す文章では、右から2列目が「避ける」「使わない」の行を、そのまま開いて書き直してください。
ビジネス英語の略語に関するよくある質問
Q. ビジネス英語の略語は、覚えないといけませんか
読む側としては、意味を知っている必要があります。
書く側としては、使わずに書けるほうが安全です。
Microsoft のブランドボイスは Shun jargon and acronyms(専門用語と略語を避けよ)と書いています。
Q. 相手が略語を使ってきたら、こちらも使ってよいですか
社内なら自然です。
ただし COB・EOD・ASAP のように時刻が決まっていない語は、返信のときに数字へ置き換えてください。
それが確認の1手を兼ねます。
Q. COB と EOD は違う時刻ですか
辞書は COB を「営業日の終わり」、EOD を「1日の終わり」と書いています。
どちらにも具体的な時刻は書かれていません。
違いを推測して動くより、時刻を聞くほうが速く終わります。
Q. 略語を全部スペルアウトすると、文章が長くなりませんか
長くはなりますが、GOV.UK のルールはそのページの初出だけです。
2回目以降は頭文字だけでかまいません。
Microsoft も同じく、初出で併記すれば以降は略語だけでよいと書いています。
Q. 見出しやタイトルに略語を入れてよいですか
Microsoft は、見出しでの初出は避けるよう書いています。
ただし検索のために見出しへ入れる必要がある場合は例外とし、その場合は直後の本文で正式名称を併記するよう指示しています。
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